
ゴムの最大の特長は、押されても、引っ張られても自分の力で元の姿に復元する「弾性」にあります。
この唯一無二といわれる特性から、タイヤをはじめ工業や電気・電子、医療、履物・スポーツ分野に使われ、工業材料として100年以上の歴史を持ちます。
しかし、ゴム特性のメカニズムの解明はいまだ完全に解き明かされていません。
そんな不思議な素材でもあるゴムには二種類――ゴムの樹といった植物由来の「天然ゴム」と、主に石油由来の「合成ゴム」――があります。
天然ゴムはタイヤに最も用いられ、合成ゴムはタイヤだけでなく、耐熱や耐寒、耐油、耐候性といった特性を生かし工業用品用途にも幅広く使われています。
ここでは、天然ゴムについてご紹介します。
天然ゴムとは
天然ゴムとは、ゴム樹(学名:へべアブラジリエンシス)の幹の周囲を切り付け、樹液(フィールド・ラテックス)を滲出させて、これを収集、精製して生産される原料ゴムの総称です。
天然ゴムの主な栽培地
天然ゴムを滲出するゴム樹は、高温多湿で降雨量が多い熱帯地域で栽培されます。
インドネシア、タイ、マレーシアなどの東南アジアが主要な栽培地です。ほかにはコートジボアールやナイジェリアなどのアフリカ地域、またブラジルやグアテマラなどの南米地域に広がっています。
ラテックスと天然ゴムは違う?
時折、天然ゴムと同様の意味で使用されてしまうことがある「ラテックス」ですが、厳密に言うと異なる物です。
「ラテックス」とは、ゴム樹の樹液を指します。つまり、天然ゴムの原料となる素材です。そしてラテックスを加工したものが、天然ゴムです。
天然ゴムと合成ゴムはなにが違う?
冒頭に書いた通り、ゴムには、①天然ゴムと②合成ゴムの二種類があります。
これらゴムの違いは原料にあります。天然ゴムは植物であるゴムの樹の樹液を原料として作られる一方、合成ゴムは主に石油由来の原料で作られます。
天然ゴムの特徴
天然ゴムは、弾性や伸張性、粘着性、耐久性、強靭性などに優れた特長を持ちます。
特にトラックやバス、建設車両、航空機などの大型タイヤに求められる破壊強度と低発熱性に優れています。現状、代替素材は見出されていません。ゴムの中で一番強いゴムである、と言っても過言ではない素材です。
さらに植物由来ということからサステナブルマテリアル(持続可能な資源)の代表格とも言えます。
一方、天然ゴムは熱や油に弱いというデメリットもあります。それらを補うために作られたのが合成ゴムです。
天然ゴムの主要用途
天然ゴムの主要用途として、タイヤやホース、コンベヤベルト、輪ゴムといった産業用ゴム部品や日用品などが挙げられます。
中でも、その約70%がタイヤ生産に用いられています。特にトラックやバス、産業用車両などの大型タイヤに多く使われています。
天然ゴムに関する動向
拡大する天然ゴム需要
天然ゴムの消費量は年々増加しています。
世界的な人口増加で自動車の生産・保有台数も増え、天然ゴムが最も使われるタイヤの数も増加傾向にあるからです。
求められるサステナブルな天然ゴム
天然ゴム需要が世界規模で拡大傾向にある一方、将来的な天然ゴム不足も懸念されています。その危機を回避するため、持続可能な利用を実現する必要があります。
その利用を実現するには、森林破壊を回避しながら今ある栽培地の生産性を向上させ、収穫量の増加による小規模農家の生計向上を図る必要があります。
持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム「GPSNR」の存在
天然ゴム消費の増加は森林減少に繋がっています。
天然ゴム農園は世界の森林減少の要因で約1%を占めているとされ、180万ヘクタールを減少させています。
供給面で天然ゴムの持続可能性を考える必要に迫られている中、持続可能性の向上のためには、サプライチェーンの中で、森林減少ゼロや人権の問題など、環境・社会課題解決に取り組むことは必須です。
農作物と同じ一次産品の天然ゴムに対し、近年トレーサビリティの重要性が叫ばれています。しかし、それは一企業だけで解決することは難しく、他者との連携が重要です。
そういった背景から2019年に立ち上がったのが、持続可能な天然ゴムのためのグローバルプラットフォーム「GPSNR(Global Platform for Sustainable Natural Rubber)」。タイヤメーカーを中心に、複数の企業、NGO、小規模農家など様々なステークホルダーが連携しています。
森林破壊防止規則(EUDR:EU Deforestation Regulation)
森林破壊防止規則(EUDR)とは、欧州連合(EU)が2023年6月29日に発効させた、森林破壊に関連する製品のEU市場への流通を規制する規則です。
森林破壊と関連する製品に、天然ゴムも含まれます。
その施行は当初、大企業については2024年12月30日から、中小企業は2025年6月30日からとなっていましたが、1年延期されました。
このEUDRに対応する天然ゴムの安定調達などの動向が注目されています。
進むパラゴムノキ以外の天然ゴム開発
天然ゴムは産地が限られており、栽培する量にも限度があります。
そこで、近年ではパラゴムノキ以外のグアユールやロシアタンポポといった植物由来の天然ゴムの実用化が進められています。
またパラゴムノキの存続に関わる病害診断技術やゲノム解析から生産性の上がる新品種の研究開発によって、安定した生産のサポートも進んでいます。
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